この宇宙次元に散らばる諸世界のなかに、セレンダイルとフォーテイルというふたつの種族が共存する世界がありました。
しかし、ふたつの種族はお互いの特性を生かして共存するというよりも、刃を交える形で接することが多かったのです。
水と陸の種族の戦いは永遠に続くとさえ思われていたのですが、果ての無い戦いはフォーテイル族が異世界から召喚したひとりの魔法使いによって一応の終焉を迎えることとあいなりました。
異世界人の魔法使いは、フォーテイル族の暮らす大地とセレンダイル族の住まう水の境にシャイアという金色のの草を編み出すことにより、両種族の領域に境界線を作ったのです。
金色のシャイアはセレンダイル族の上陸を決して許しはしませんでしたが、フォーテイル族にも代価を与えたのです。シャイアがこの世界に生まれてからというもの、フォーテイル族は日の光のもとにある水に触れることが叶わなくなったのです…
魔法使いは二種族の境界線の代価として、両種族に対して均等に痛みを背負わせることにしたのでしょうか?
それはこの世界の誰にもわからないことでした―
とはいえ、セレンダイル族は魔力に長けた種族です。
現在はシャイアの金色の輝きに阻まれて上陸を阻止されている彼らも、時が過ぎればいつまた陸を侵攻するかはわかりません。
ゆえに、ふたつの種族の間に境界線が敷かれてから千年が過ぎても、フォーテイル族はセレンダイル族への警戒を解くことはありませんでした。
フォーテイル族が国家を作っている大陸のひとつにヴェストゥールという名のものがありました。
ヴェストゥール大陸に暮らすフォーテイル族は都市国家連合体という形をとって国家を運営しています。
そうした都市国家群の南方には「南方五都市」として知られるいつつの街―セネイ、パルム、ウィスタン、レイリスルーシェ、―がありました。
しかし、これら5つの街はともに協力し合って独自の文明を編み出すというよりもむしろいつ果てるとも知れない戦乱の渦中にあり、都メレルも手を焼くほどの状況にあるのです。
パルムも例外ではなく、常に周囲の街との関係では緊張を強いられていました。長の奥方が若君と姫君をひとりづつ残して早逝したこともこの緊張状態が一因とされているのです―
奥方亡き後、長はエリーシアという女性を後添えに迎えました。
長の強い希望であるとはいえ、≪封印貴族≫の出であったエリーシアをパルムの街の女主人とするにあたっては周囲は難色を示し、結局のところは長が周囲の反対を押しきる形で強引にことを進めることになったのです。
その後、周囲の思惑はともあれ、パルムの長とエリーシア夫人の夫婦仲は他の街でも羨まれるほどのものとなりました。
そして、エリーシアは夫との間に黒髪の姫を授かることとなったのです。
ライシェリーゼと名づけられた黒髪の姫君は、やがては「ディレイの白百合」として名高いディレイの副長の家クローナ家のメリルアンジェ姫とともに「パルムの赤薔薇」と称される評判の美姫へと成長することになるのですが、≪封印貴族≫を母に持つ姫にとってフェイラム邸での日々は穏やかとは程遠いものでしかありませんでした。
屋敷での窮屈な日々に耐えかねた姫は、ついにティーアの名を捨てて屋敷を出奔する決意を固めます。
ライシェリーゼ姫が、ロイの率いるライディストに紛れて生まれ育ったフェイラムの屋敷を後にしたとき、彼女は18歳でした―
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